大阪 占い師 菜々先生の記事 終章 「おばあちゃんになる朝」

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占い師の開運ブログ
  • スピリチュアル編

2026.4.24 終章 「おばあちゃんになる朝」


 

その夜の休憩室には、

これまでの章とは少しちがう、

やわらかく、あたたかい明るさが満ちていた。

 

隠者のランプの灯りは、

傷を照らすためのものというより、

朝が来る前の台所にともる小さな電気みたいに、

静かに、でもたしかにそこにあった。

 

星のカードが、

窓辺でそっと言う。

 

「今夜の話は、

失ったものがそのまま戻る話じゃないんだね。」

 

ランプが小さくうなずいた。

 

「ええ。

これは、別の呼び名で、もう一度やってくる話です。」

 



 

息子は、月の揺らぎの中から、自分の人生のほうへ歩き出していった。

母を振り返らず、若さの勢いも不器用さも抱えたまま、それでも自分の足で。

 

そのことは、菜々にとっては痛みだった。

塔みたいに、それまでの足場が崩れる夜でもあった。

 

そしてそれは、

失ったというより、母と息子の形が次の季節へ移り変わっていく痛みだった。

 

会えなかった時間。

知らされなかったこと。

母として置いていかれたように感じた夜。

 

そこにはたしかに、

ひとつの時代の終わりがあった。

でも、物語はそこで終わらなかった。

 

止まったように見えた時間も、

遠回りしたように見えた家族の流れも、

どこかでは静かに回り続けていたのだと思う。

 

息子は息子の人生を生きていた。

その先で出会った人がいた。

家族になった人がいた。

 

そして今度は、

嫁ちゃんが小さな星を抱くようにして、

菜々の前に現れてくれた。

 

それは、お正月の二日だった。

 

息子夫婦が、

ホテルも新幹線の切符も取ってくれていた。

 

そのことだけでも、

菜々にとってはまだ少し不思議だった。

 

当日は、夜ごはんでの合流だった。

 

そこで初めて会った嫁ちゃんは、

小柄で、清楚で、

どこか控えめなやさしさをまとった女の子だった。

 

「初めまして」

その言葉と、

ジャンパーの下にそっと隠れていたお腹を見せてくれた瞬間は、

たぶんほとんど同時だったと思う。

 

息子と嫁ちゃんは、

落ち着いた同じ色味のリュックを背負って、

二人で可愛く手をつないでいた。

 

その並び方が、

なんだかもうちゃんと“家族”の形をしていて、

菜々はそれを見た瞬間、

胸の奥で長いあいだ凍らせていたものが、

音もなくほどけていくのを感じた。

 

うれしい、という一言だけでは足りなかった。

安心した、でも足りなかった。

もう、逢えただけでよかった。

 

そこに息子がいて、

嫁ちゃんがいて、

まだ小さな命の気配がそのあいだにあって、

その光景の中に自分が入れている。

 

そのことだけで、

菜々の中では十分すぎるほどの幸せだった。

 

まだその星には名前がなかった。

 

でももうすでに、

あたらしい命の気配だけは、

静かにこちらへ届きはじめていた。

 

その夜、

息子夫婦と別れてホテルの部屋へ戻ったあと、

窓の正面には、

スカイツリーの灯りが静かに立っていた。

 

あとから知ったことだけれど、

その部屋は、

息子夫婦がわざわざ

スカイツリーがよく見える部屋を取ってくれていたのだった。

 

昼間はただ、

会えることのほうが大きすぎて、

胸の中はずっとふわふわしていた。

 

でも一人きりの部屋に戻って、

窓の向こうのスカイツリーを見上げたとき、

菜々はようやく

「あぁ、本当にここまで来たんだ」と思った。

 

息子がいて、

嫁ちゃんがいて、

まだ生まれる前のお孫ちゃんの気配があって、

その全部のあとに、

窓の向こうでスカイツリーが静かに光っている。

 

その灯りは、

菜々にとっては

遠くまで来た命の灯台みたいに見えた。

 



 

やがてその星は、

太陽の朝に生まれてきた。

お空から来てくれた小さな命。

 

まだ何も語らないのに、

もうそこにいるだけで、

世界の空気を少し変えてしまうような存在。

 

菜々はその子に会いに行った。

そして、抱っこした。

 

おひさまみたいにふんわりあたたかい命を、

そっと腕の中に抱いた。

 

母として戻れなかった場所に、

おばあちゃんとして、

もう一度呼ばれるみたいに。

 

そのぬくもりは、

昔の痛みをなかったことにはしなかった。

 

でも、痛みだけが真実ではなかったと、

小さな体そのものが教えてくれた。

 

息子は、母を振り返らず自分の人生へ進んでいった。

それはたしかに、そうだった。

 

でもその先で生まれた命が、

今度は菜々を

「おばあちゃん」として

もう一度、家族の輪へ招き入れてくれた。

 



 

世界のカードが、

その光景を見つめながら静かに言う。

 

「失ったものがそのまま返ってきたわけじゃないんだね。」

 

ランプがやわらかく灯る。

 

「ええ。

でも、命の流れは止まっていなかったのです。」

 

星のカードが小さく笑う。

 

「もっとやさしい形で、

朝のほうから迎えに来てくれたんだね。」

 

ランプは、

その言葉に静かにうなずいた。

 

「そうです。

だからこれは、

悲しみの訂正ではなく、

命の続きの物語なんです。」

 



 

菜々は、

おばあちゃんになる朝を迎えた。

 

母として抱えてきた痛みの全部が消えたわけではない。

 

それでも、

その朝にはたしかに、

ひとつの復活のラッパが鳴っていた。

 

昔の場所へ戻るのではなく、

新しい呼び名で、

新しい席へ座るためのラッパ。

 

それはきっと、

これまで通ってきた塔も、月も、

無駄ではなかったと告げる音だったのだと思う。

 

失ったものがそのまま戻るのでは無く、命はこうして、もっとやさしい呼び名で続いていくのだろう。

 

菜々