大阪 梅田の占い師 菜々先生|終章 「おばあちゃんになる朝」

占い師の開運ブログ / 菜々先生

梅田店 7F
06-6676-8450
梅田店 8F
06-6110-5098

占い師の開運ブログ
  • スピリチュアル編

2026.4.24 終章 「おばあちゃんになる朝」


 

その夜の休憩室には、

これまでの章とは少しちがう、

やわらかく、あたたかい明るさが満ちていた。

 

隠者のランプの灯りは、

傷を照らすためのものというより、

朝が来る前の台所にともる小さな電気みたいに、

静かに、でもたしかにそこにあった。

 

星のカードが、

窓辺でそっと言う。

 

「今夜の話は、

失ったものがそのまま戻る話じゃないんだね。」

 

ランプが小さくうなずいた。

 

「ええ。

これは、別の呼び名で、もう一度やってくる話です。」

 

⸺

 

息子は、月の揺らぎの中から、自分の人生のほうへ歩き出していった。

母を振り返らず、若さの勢いも不器用さも抱えたまま、それでも自分の足で。

 

そのことは、菜々にとっては痛みだった。

塔みたいに、それまでの足場が崩れる夜でもあった。

 

そしてそれは、

失ったというより、母と息子の形が次の季節へ移り変わっていく痛みだった。

 

会えなかった時間。

知らされなかったこと。

母として置いていかれたように感じた夜。

 

そこにはたしかに、

ひとつの時代の終わりがあった。

でも、物語はそこで終わらなかった。

 

止まったように見えた時間も、

遠回りしたように見えた家族の流れも、

どこかでは静かに回り続けていたのだと思う。

 

息子は息子の人生を生きていた。

その先で出会った人がいた。

家族になった人がいた。

 

そして今度は、

嫁ちゃんが小さな星を抱くようにして、

菜々の前に現れてくれた。

 

それは、お正月の二日だった。

 

息子夫婦が、

ホテルも新幹線の切符も取ってくれていた。

 

そのことだけでも、

菜々にとってはまだ少し不思議だった。

 

当日は、夜ごはんでの合流だった。

 

そこで初めて会った嫁ちゃんは、

小柄で、清楚で、

どこか控えめなやさしさをまとった女の子だった。

 

「初めまして」

その言葉と、

ジャンパーの下にそっと隠れていたお腹を見せてくれた瞬間は、

たぶんほとんど同時だったと思う。

 

息子と嫁ちゃんは、

落ち着いた同じ色味のリュックを背負って、

二人で可愛く手をつないでいた。

 

その並び方が、

なんだかもうちゃんと“家族”の形をしていて、

菜々はそれを見た瞬間、

胸の奥で長いあいだ凍らせていたものが、

音もなくほどけていくのを感じた。

 

うれしい、という一言だけでは足りなかった。

安心した、でも足りなかった。

もう、逢えただけでよかった。

 

そこに息子がいて、

嫁ちゃんがいて、

まだ小さな命の気配がそのあいだにあって、

その光景の中に自分が入れている。

 

そのことだけで、

菜々の中では十分すぎるほどの幸せだった。

 

まだその星には名前がなかった。

 

でももうすでに、

あたらしい命の気配だけは、

静かにこちらへ届きはじめていた。

 

その夜、

息子夫婦と別れてホテルの部屋へ戻ったあと、

窓の正面には、

スカイツリーの灯りが静かに立っていた。

 

あとから知ったことだけれど、

その部屋は、

息子夫婦がわざわざ

スカイツリーがよく見える部屋を取ってくれていたのだった。

 

昼間はただ、

会えることのほうが大きすぎて、

胸の中はずっとふわふわしていた。

 

でも一人きりの部屋に戻って、

窓の向こうのスカイツリーを見上げたとき、

菜々はようやく

「あぁ、本当にここまで来たんだ」と思った。

 

息子がいて、

嫁ちゃんがいて、

まだ生まれる前のお孫ちゃんの気配があって、

その全部のあとに、

窓の向こうでスカイツリーが静かに光っている。

 

その灯りは、

菜々にとっては

遠くまで来た命の灯台みたいに見えた。

 

⸺

 

やがてその星は、

太陽の朝に生まれてきた。

お空から来てくれた小さな命。

 

まだ何も語らないのに、

もうそこにいるだけで、

世界の空気を少し変えてしまうような存在。

 

菜々はその子に会いに行った。

そして、抱っこした。

 

おひさまみたいにふんわりあたたかい命を、

そっと腕の中に抱いた。

 

母として戻れなかった場所に、

おばあちゃんとして、

もう一度呼ばれるみたいに。

 

そのぬくもりは、

昔の痛みをなかったことにはしなかった。

 

でも、痛みだけが真実ではなかったと、

小さな体そのものが教えてくれた。

 

息子は、母を振り返らず自分の人生へ進んでいった。

それはたしかに、そうだった。

 

でもその先で生まれた命が、

今度は菜々を

「おばあちゃん」として

もう一度、家族の輪へ招き入れてくれた。

 

⸺

 

世界のカードが、

その光景を見つめながら静かに言う。

 

「失ったものがそのまま返ってきたわけじゃないんだね。」

 

ランプがやわらかく灯る。

 

「ええ。

でも、命の流れは止まっていなかったのです。」

 

星のカードが小さく笑う。

 

「もっとやさしい形で、

朝のほうから迎えに来てくれたんだね。」

 

ランプは、

その言葉に静かにうなずいた。

 

「そうです。

だからこれは、

悲しみの訂正ではなく、

命の続きの物語なんです。」

 

⸺

 

菜々は、

おばあちゃんになる朝を迎えた。

 

母として抱えてきた痛みの全部が消えたわけではない。

 

それでも、

その朝にはたしかに、

ひとつの復活のラッパが鳴っていた。

 

昔の場所へ戻るのではなく、

新しい呼び名で、

新しい席へ座るためのラッパ。

 

それはきっと、

これまで通ってきた塔も、月も、

無駄ではなかったと告げる音だったのだと思う。

 

失ったものがそのまま戻るのでは無く、命はこうして、もっとやさしい呼び名で続いていくのだろう。

 

菜々