大阪 占い師 菜々先生の記事 タロットの休憩室・第二夜 星の八芒星

菜々先生の記事タロットの休憩室・第二夜 星の八芒星

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  • スピリチュアル編

2026.2.6 タロットの休憩室・第二夜 星の八芒星


星の八芒星


――タロットの休憩室・第二夜


その夜の休憩室は、いつもより少し静かだった。


愚者はソファの背もたれにひっくり返って、
天井をぼんやり眺めている。
塔は隅のテーブルで、紙コップのコーヒーを両手で包み、
さっきまでの雷を嘘みたいな顔で黙って飲んでいた。


部屋の奥の丸テーブルでは、
隠者のランプがいつものように小さく揺れている。


その隣の席に、その夜はひとつ、新しい光が座っていた。


星のカードだ。


足元には水面。片手から流れる水は、
休憩室の床の一部を、こっそり夜空に変えてしまったかのようだった。


「先生、ランプの灯りって…」


星は、隠者のランプをじっと見つめた。
揺れているはずの炎の輪郭が、ときどき八つの角を持った光に見える。


「私の上にある八芒星と、同じ形をしていませんか?」


隠者は、ほんの少しだけいたずらっぽい顔をした。


「気づきましたか。
あなたの星は、もともとしばらくの間、ここに預けられていたんですよ」


「預けられていた?」


星が首をかしげる。
隠者は、ランプのガラスの外側を軽く指でなぞりながら続けた。


「まだ外に出すには、世界が荒れすぎていたり、
その人の心が傷つきすぎていたりするときがあるでしょう。


 その状態で、八芒星のまま空に掲げると、
まぶしすぎて、自分でも直視できないことがあるんです」


ランプの中の光が、ふっと八つの角を強めた。


「だからいったん、このランプの中に降ろしておく。
“希望”という名前をつける前の、
ただの小さな光として」


星は、自分のカードの上に輝く八芒星に視線を移す。


「じゃあ、誰かの心の中で、
まだ“何も感じない”って言っているあいだ、
私の星は先生のランプの中にいるんですね」


「そういう夜も、たくさんありますね」


隠者はうなずいた。


「そして、少しずつ自分の気持ちを思い出して、
『あのとき本当はつらかったな』と自分にだけでも言えるようになって、
もう一度だけ前を向いてみようかな、と思えたとき――」


隠者は、ランプの火をそっと整えた。


「そのときようやく、あなたのカードの空へと、
八芒星の姿で返してあげるんです」


星は、胸のあたりにふっと手を当てた。


「じゃあ、私の八芒星は、
隠者先生のランプを一度通った“秘密の星”なんですね」


「ええ。
闇の中で一度、ちゃんと守られてから、空に出ていく星です」







 

星は、しばらく黙ってランプの灯りと自分の八芒星を見比べていた。
やがて、少しだけ苦笑する。


「でも先生、人間たちの世界では、
八芒星って時々、“ポジティブの押し付け”みたいに扱われませんか?」


「ほう?」


“希望を持ちましょう”“前向きにいきましょう”って、
言葉だけが先に飛び交ってしまって。


 本当はまだ、ランプのそばでうずくまっていたい人まで、
『さぁ次は星ですよ!』って急かされてしまうことがある気がします」


隠者は、少しおかしそうに目を細めた。


「だからこそ、あなたの星は“夜”にしか見えないのでしょうね」


「……?」


「真昼の太陽みたいに、
全部を照らしてしまう光ではない。


 暗さの中で、
それでも“どこかの方向だけはまだ見える”
ということを知らせる灯りです」


星は、八芒星のひとつひとつに視線を滑らせる。


「八つの光はね、
『これから先、たった一つの正解だけを選びなさい』
という印ではありませんよ」


隠者の声は、ランプの火と同じくらい静かだった。


「どこを向いてもいい。
でも、今のあなたがいちばん
 “楽に息ができそうだな”と感じるほうを、
ひとまずの“北”にしてみましょう。


 私は、そういう意味で、星の光を見ています」


星は、小さく笑った。


「じゃあ、この八本の光は、
“がんばりましょう”じゃなくて、
 “好きな方向を選んでいいですよ”っていう合図なんですね」


「そうです。


 隠者のランプのそばで、まだ動けない夜もある。
でも、ほんの少しだけ顔を上げてみたとき、
どこか一方向にだけ、星が見える夜があります」


隠者は、ランプの火を少し弱めた。


「そのときに、
“さぁ走りなさい”と急かすのが私たちの役目ではありません。


 ――ああ、あなたは今、
あの星のほうを見ているんですね、って。


 ただ、それを一緒に確認するくらいで、ちょうどいい」


星は、自分のカードの空に浮かぶ八芒星にそっと指を伸ばした。


「先生のランプが、
 『ここまでよく生き延びましたね』って
過去の私に灯をともしてくれるなら――」


指先で触れた八芒星が、すこしだけあたたかくなる。


「私は、
 『じゃあこの先、どの方向に小さく願いを出してみましょうか』って、
これからの私と話をする役目なんですね」







 

休憩室の灯りが、少しだけ柔らかくなったような気がした。


愚者はいつの間にかソファの上で丸くなって眠っている。
塔のコーヒーは空になり、
ソード3のハートには、新しい包帯が巻かれていた。


丸テーブルの上では、
隠者のランプの中で揺れる小さな八芒星と、
星のカードの上で輝く大きな八芒星が、
互いに干渉しすぎない距離で、同じ夜を照らしている。


ひとつは、
「何も感じない」と言っていた心が、
本当はずっと息をしていたことを思い出させる灯り。


もうひとつは、
「この先、どこへ向かってもかまわない」
静かに許可を出す灯り。


どちらも、夜にしか見えない種類の光だ。


その光の下で、
人間たちの世界では今日も、
誰かが眠る前にふっとスマホを置いて、天井を見つめる。


「本当は、あのときつらかったな」
「それでも、もう一度だけ信じてみたいな」


そんな小さなつぶやきが、
床を伝って休憩室に届くころ。


星は、八つの光のうちのどれか一本を、
そっと少しだけ強くしてみせる。







 

今日もどこかで、
隠者のランプの中に預けたままだった八芒星を、
ほんの少しだけ空に掲げてみようとしている心に、


静かな星の光が、
やさしく届きますように。


菜々