大阪 占い師 菜々先生の記事 タロットの休憩室・第一夜  隠者のランプ─「何も感じない」夜に灯る小さな光─

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2026.2.3 タロットの休憩室・第一夜  隠者のランプ─「何も感じない」夜に灯る小さな光─
こんにちは、ルーナの菜々です。

朝晩の空気に、少しずつ季節の移ろいを感じるようになりましたね。

こんな変わり目の時期は、自分の心だけが置いていかれる気がする」というご相談も増えてきます。

 

今日は、そんなときにそっと灯りをともしてくれるタロット9番【隠者】をテーマに、「タロットの休憩室・隠者のランプ」という小さな物語をお届けします。

 



 

――タロットの休憩室・第一夜

 

その夜も、店じまいのあと。

カードたちは、一枚ずつテーブルから引き上げられ、

誰もいない鑑定室は、いつもの静けさを取り戻していた。

 

人の気配がすっかり消えると、

タロットたちは、そっと「休憩室」へと集まってくる。

 

「今日も聞かれたよ。“運命の人ですか?”って」

 

一番に駆け込んできたのは、やっぱり愚者だった。

リュックを放り出して、ソファにダイブする。

 

「ボクさ、“はじまり”なんだけどなぁ。

みんな、はじまりの顔して、すぐゴールの話するんだよね」

 

愚者のぼやきに、力のカードが笑いながらライオンのたてがみを撫でる。

 

「私は、“我慢しすぎ案件”が多かったわよ。

外には噛みつけないからって、自分のここばっかり噛んでるの」

 

そう言って、自分の胸元を軽く指でつつく。

 

ソード3は、少し離れたところで、

ハートに刺さった3本の剣を、指先で撫でていた。

 

「“失恋カード”って今日も言われてたわ。

あの人、まだちゃんと泣いてないだけなんだけどね」

 

休憩室は、そんなカードたちの小さなため息で、

少しだけ湿った空気になっていく。

 

部屋のいちばん奥。

木の丸テーブルの上で、小さな光がひとつだけ揺れていた。

 

隠者のランプだ。

 




 

「先生、今日も灯ってますね」

 

星のカードがそっと近づき、隣の椅子に座る。

隠者は「ええ」と短くうなずいて、

手に持ったランプを少しだけ持ち上げた。

 

「今日も、たくさん集まってきましたからね」

 

星がランプの中をのぞき込むと、

そこには、はっきりした形を持たない“何か”が

ゆらゆらと揺れている。

 

「それ、何が燃えてるんですか?」

 

「見てもらえなかった気持ちですよ」

 

隠者は、あくまで静かな声で答える。

 

「“もう平気です”って笑いながら、

本当はまだ悲しかった人の心とか」

 

昼間の光景が、星の頭の中に浮かぶ。

カップ5が出ているのに、「切り替えが大事ですよね」と

先に自分を励ましてしまった人。

 

「“怒ってなんかないです”って言いながら、

ちゃんと腹を立てていた人の心とか」

 

ソード9が並んでいたのに、

「私の我慢が足りないだけなんです」と

自分を責めた人の横顔。

 

「そういうのが、ここに来て燃えるんです」

 

ランプの火は、大きくはならない。

ただ、消えもせず、

そこにあることだけを主張し続けている。

 




 

「先生、どうしてそれを、人間たちに見せないんですか?」

 

星が、ほんの少しだけ不満そうにたずねる。

隠者は、ランプの火を指で覆ったり、開いたりしながら答える。

 

「これは、“見せる”灯りじゃなくて、

“気づいた人だけが気づく”灯りなんですよ」

 

「気づいた人だけ?」

 

「“私、何も感じないんです”と言いながら、

言葉の端っこだけ震えている人がいるでしょう」

 

星は、今日の鑑定を何件か思い出す。

淡々と話す声の奥で、

ほんの一瞬だけ揺れた、あの目の光。

 

「ああいうとき、このランプは、

そっとその人の胸の内側を照らしています」

 

「じゃあ、人間たちは、ここには来ないんですね」

 

星がつぶやくと、隠者は首を横に振った。

 

「来ますよ。ときどき、寝る前に目を閉じたときとか。

ふと昔の自分を思い出して、

『あのとき、本当はつらかったな』って

ひとりごとのように言える夜があるでしょう」

 

星は、少しだけ笑う。

 

「ありますね。

あれ、ここに来てるんですか?」

 

「ええ。あの瞬間だけ、

人間たちは、ここのソファを使っていますよ」

 




 

休憩室では、まだ愚者が騒いでいる。

「次は世界になるんだ!」と、

世界のカードに相手をしてもらっている。

 

塔は相変わらず隅でコーヒーを飲みながら、

「今日も壊し役だった…」と小声でぼやいている。

 

その少し離れた場所で、隠者のランプは、

静かに、一定のリズムで揺れていた。

 

大きな運命を変える光じゃない。

眩しい幸運を約束する光でもない。

 

ただ、ひとつだけ確かなことがある。

「何も感じない」と言っていた心が、

どこかでそっと息をしていることを、

このランプだけは知っている。

 

星は席を立つ前に、

自分の小さな星くずをひとつ、ランプの中に落とした。

 

ほんの少しだけ、

灯りがあたたかくなった気がした。

 

——————


今日もどこかで、「何も感じない」とつぶやきながら、

それでも静かに息をしている貴方の心に…


隠者のランプの灯りがそっと届きますように。


 by 菜々